
はじめに
日本では人口減少と高齢化に伴い、空き家が年々増加しています。総務省の調査によると、全国の空き家率は過去最高を記録し、2030年には3軒に1軒が空き家になるとも予測されています。
中でも深刻なのが「実家の空き家化」。親の死去や施設入居をきっかけに空き家となり、放置されたまま管理もできず、固定資産税だけがかかり続ける――そんなケースが急増しています。
この記事では、空き家問題の背景から、実家の売却・活用の方法、相続前後にやるべきことまで、多面的に解説していきます。
感情的な問題と法的・経済的な課題が複雑に絡む「実家問題」。早めに動くことで、後悔しない選択を可能にしましょう。
1. 実家の売却・空き家問題が社会課題となっている背景
かつて「家を継ぐ」のが当たり前だった時代は過ぎ、子世代が都市部で生活基盤を築くケースが主流になりました。その結果、親の家が空き家になっても「戻るつもりはない」という状況が多く生まれています。
空き家の放置は、以下のような問題を引き起こします。
- 固定資産税などの維持コストが継続的に発生する
- 老朽化による倒壊・火災・不法侵入などリスクが高まる
- 近隣住民とのトラブルや景観悪化につながる
こうしたリスクを抱えながらも「思い出が詰まった実家を手放しづらい」「兄弟で話し合いが進まない」など、感情面のハードルが大きな壁となっているのが現状です。
2. 相続「前」にできる対策とは?
親が元気なうちに話し合いを始めることが、最も効果的な対策です。
相続後は、遺産分割や名義変更などの手続きが複雑になり、放置の原因にもなります。生前に以下のようなステップを踏むことで、スムーズな空き家対策が可能になります。
- 実家をどうするか、家族でオープンに話し合う
- 親の意思を確認し、可能であれば遺言書を作成する
- 生前贈与や家族信託など、活用できる制度を検討する
- 実家の不動産評価額や売却可能性を不動産会社に相談する
3. 相続「後」に必要な判断と手続き
相続が発生した場合、空き家の扱いについては以下の点を整理する必要があります。
- 不動産の名義を相続人に変更(相続登記)する
- 相続人同士で売却・保有・賃貸などの方針を決める
- 固定資産税や管理費用の分担方法を話し合う
- 老朽化している場合は解体も視野に入れる
なお、相続登記は2024年から義務化され、期限内(相続発生から3年以内)に登記しないと過料(罰金)が科されるようになりました。
「誰も登記せず放置」という状態は、今後ますますリスクが高まります。
法務省「相続登記の申請義務化に関するQ&A」
4. 空き家をめぐる税制と補助制度の活用法
実家の売却や利活用にあたっては、税制上の優遇措置や補助金制度も検討対象になります。
● 空き家の3,000万円特別控除
一定条件を満たせば、空き家を売却する際に譲渡所得から最大3,000万円まで控除を受けられます。
【主な条件】
・相続から3年以内に売却する
・被相続人が一人暮らしで、かつ旧耐震基準の家を耐震改修または取り壊して売却する など
● 固定資産税の軽減措置
住宅用地として利用していれば、土地にかかる固定資産税が1/6に軽減されます。
ただし、倒壊リスクが高い「特定空き家」に指定されると、この優遇措置は受けられなくなります。
● 各自治体の補助金制度
解体費やリフォーム費に補助金を出す自治体も増えています。
地域の空き家バンクに登録することで、購入希望者とのマッチングも可能です。
5. 売却・活用に向けた実践ステップ
実家を空き家のまま放置せず、売却・活用に進むためのステップを以下に整理します。
① 家族間で方針を合意する
感情や思い出に配慮しつつ、経済的・現実的な判断が必要です。
② 状況調査と相場把握
築年数・立地・耐震性などをもとに、不動産会社に査定を依頼しましょう。
③ 使い道を検討(売却 or 賃貸 or セカンドハウス活用など)
・売却: まとまった資金が得られ、維持コストもゼロに
・賃貸: 収益源になるが、管理負担あり
・利活用: 週末利用やシェアハウス、地域連携施設として再活用する手も
④ 専門家と連携して手続き進行
司法書士・税理士・不動産会社などと連携して、売却や賃貸に向けた手続きを着実に進めましょう。
まとめ:感情と経済のバランスを取った「実家との向き合い方」
実家は多くの人にとって「思い出の詰まった場所」であり、簡単に手放せるものではありません。
しかし、放置によるリスクや税負担を考えれば、早めの判断が不可欠です。
相続前に家族で率直な話し合いをし、活用可能な制度を把握したうえで、最善の選択肢を見つけることが大切です。
「守るべきものは何か?」「未来に何を残したいか?」――そうした本質的な問いを見つめ直すことで、感情にも経済にも納得できる“実家との関係の再構築”が始まります。