外貨建て保険の仕組みとリスク

外貨建て保険の基本構造

はじめに:外貨建て保険の基本構造

外貨建て保険は、その名の通り「保険料の払い込み・積立・保険金(解約返戻金)の計算通貨が外貨」で行われる保険です。代表的には米ドル建て・豪ドル建て・ユーロ建てなどがあり、終身保険や個人年金保険、養老・積立タイプが中心です。

基本的な仕組みは、外貨建ての資産(主に外貨建て債券等)で運用し、その成果を保険として契約者に還元するというもの。日本円建てより予定利率(運用前提)が高く見えるのは、円金利が相対的に低い局面が多いからです。

ただし、円ベースでの資産形成を考える場合、為替(円⇄外貨)の変動が最終的な受取額に直接影響する点が最大の特徴であり、同時に最大のリスクでもあります。

1. 米ドル建て・豪ドル建てなどの種類

最も流通量が多いのが米ドル建て。米国債や米ドル建て社債で運用されるため、商品バリエーションが豊富で、情報も比較的入手しやすいです。次点で豪ドル建てがメジャー。豪州は資源国であり、金利水準が相対的に高い局面が多かったことから人気を集めた時期もあります。

ユーロ建ては選択肢として存在するものの、商品数はやや少なめ。保険会社によっては複数通貨に分散できるタイプや、積立通貨と受取通貨を選べる柔軟型もあります。

どの通貨を選ぶにせよ重要なのは、自分が「円で生活する」ことを忘れないこと。生活通貨が円である以上、為替の変動は家計にダイレクトに影響します。

💡 通貨選びの第一歩は「自分の支出がどの通貨か」。将来、外貨で使う予定がなければ円ベースの影響を最重視。

2. 為替変動が受取額に与える影響

外貨建て保険の「契約通貨ベースの返戻金」は、契約・運用のルール通りに積み上がりますが、円で受け取る時点の為替レートで円換算額が上下します。

たとえば、満期(または解約)時に20,000米ドル受け取り予定だとします。

  • 1ドル=110円 → 円換算220万円
  • 1ドル=150円 → 円換算300万円

同じドル額でも、円安なら円受取額は増え、円高なら減ります。逆に、払い込み期中は逆方向に働きます。たとえば月100ドルの保険料の場合、

  • 1ドル=110円 → 月11,000円の負担
  • 1ドル=150円 → 月15,000円の負担

円安が進むと支払う円の額は重くなり、受け取り時に円高に振れれば円換算額は減る──これが「為替の両刃」です。

💡 「払い込み時」と「受け取り時」で為替の影響は真逆。長期契約ほど為替の波に長くさらされることを意識。

3. 保険料支払いと為替レートの関係

外貨建て保険の保険料は、契約通貨の定額で決まるのが一般的です。円で払う場合は、支払日の為替レートで都度円換算されます。注意すべきポイントは以下の3つです。

  1. 為替スプレッド:外貨を買う・売る際には銀行や生命保険会社が定める“レート差(手数料相当)”が上乗せされるのが通常。積み立ての度に見えないコストが発生します。
  2. 両替タイミング:毎月払いでは円安局面での負担増を毎回受けます。年払い・半期払いにして両替回数を減らせばスプレッドの累計は抑えられますが、一度に大きな円→外貨が必要になります。
  3. 外貨口座の活用:外貨で収入がある人や外貨預金を持つ人は、その外貨から払えば円転換コストを避けやすい場合があります。
💡 “予定利率”だけでなく「為替スプレッド×回数」が長期で効いてくる。積み上がるコストを侮らない。

4. 解約返戻金と運用利回りの見方

広告等で目にする“返戻率”の数字は、契約通貨ベースで語られることが多いです。しかし、私たちが実際に使うのは円。評価すべきは円ベースの実質利回りです。

  • 契約通貨の返戻率:商品性としての水準を把握
  • 円換算の実質成果:払込時の円→外貨、受取時の外貨→円のレート、スプレッドや諸費用を含めたトータルの成果で評価
  • 途中解約時の水準:外貨建て保険は初期コスト(販売費・付加保険料)が高く、早期解約の返戻率は低い傾向
  • 解約控除:一定期間内の解約にペナルティ(解約控除)が設定される場合があり、短期の乗り換えは不利
💡 “返戻率○%”は通貨の壁を越えた数字ではない。円ベースで「総支払額と総受取額」を必ず突き合わせる。

5. 為替ヘッジの有無とコスト

一部の商品やオプションで、為替変動の影響を抑える為替ヘッジを提供するものがあります。

  • メリット:将来の円受取額のブレを軽減し、計画を立てやすい
  • デメリット:コストがかかるため利回りは低下。長期でみれば「保険+ヘッジコスト」の合算が実力値

完全にブレを消せるわけではなく、ヘッジの仕様(期間・比率)によっては差損益が発生します。

💡 ヘッジは「不安をお金で買う」発想。利回りとのトレードオフを数字で納得できるかが鍵。

6. 外貨建て保険が向いている人・向かない人

向いている人

  • 日本円だけに偏らず、長期で外貨資産も持ちたい人(通貨分散の一部として)
  • 将来、外貨での支出予定がある人(留学・海外移住・外貨建て学費など)
  • 長期の積立を継続でき、途中解約の可能性が低い人
  • 為替の値動きとコスト構造を理解し、変動に耐えられる人

向かない人

  • 数年内に解約する可能性がある、または緊急資金の余裕が薄い人
  • 為替変動で保険料負担が増えると家計が崩れる人
  • 「金利が高いらしい」だけで選び、通貨リスクを理解していない人
  • 外貨で使う予定が全くなく、最終的に円の額面を確定させたい人
💡 “向き・不向き”は商品力の問題ではなく、家計と心理の相性の問題でもある。

7. リスク軽減策と注意点

  1. 積立の為替分散を意識:毎月一定額の外貨を買う=ドルコスト平均で時間分散
  2. 両替回数を減らす or 外貨払い:年払・半期払でスプレッド回数を抑える、外貨口座から支払うなど
  3. 受取通貨の戦略:円安時に外貨で受け取り、将来の外貨支出に充てることで往復両替を回避
  4. 保険料増額・減額・払済の使い方:為替急変や収支変動時に柔軟に対応できるか事前確認
  5. 手数料・費用の内訳把握:保険関係費、スプレッド、ヘッジコスト、解約控除などを合算して評価
  6. クレジットリスク:保険会社の健全性(格付け・ソルベンシー)をチェック
  7. 目的の明確化:老後資金、教育資金、相続対策など目的により条件が異なる
  8. 税制の確認:受取時の課税や為替差損益の扱いを事前に確認
💡 「想定外」を減らす最短ルートは費用表と約款を読むこと。販売資料の見出しだけで決めない。

まとめ:リスクとメリットを見極めた外貨建て保険利用法

外貨建て保険は、低金利の円環境では魅力的に映る一方、為替が主役の金融商品です。

  • 受取額は契約通貨ベースで積み上がるが、円換算は受取時点の為替次第
  • 積立中は円安で円負担が重くなり、受取時は円高で円受取額が減少する可能性もある
  • 見えにくいコスト(スプレッド・ヘッジ費用・初期費用・解約控除)も含め、円ベースの実質成果で評価
  • ライフプラン上、外貨で使う目的があるかを再確認
  • 契約は長期継続を前提に。途中解約はコストと為替の両面で不利

「金利が高いから得」という短絡的な判断ではなく、通貨の違いによる変動を理解し、積立の時間分散や両替コスト抑制、ヘッジの是非を数字で検討。家計全体で外貨比率が過剰にならないよう管理しましょう。

💡 “魅力”で選ばず“仕組み”で選ぶ。外貨建ては理解が深いほど、味方にも強敵にもなる。

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