
はじめに:相続分はどう決まるのか
相続とは、亡くなった方(被相続人)の財産を、残された家族(相続人)が受け継ぐ手続きです。このときに必ず議論の的となるのが「誰が、どれだけ受け取るのか」という配分の問題、つまり「相続分」です。
相続分は大きく分けて2つのパターンで決まります。一つは民法によってあらかじめ定められた「法定相続分」、もう一つは遺言によって自由に配分が指定された「指定相続分」です。相続人の人数や関係性、遺言書の有無によって配分が変わるため、基本的なルールと例外を押さえておくことが重要です。
この記事では、相続分の基本構造から、法定と指定の違い、さらに寄与分や遺留分といった調整項目まで、相続分の全体像を丁寧に解説していきます。
1. 法定相続分とは?民法で定められた基準
「法定相続分」とは、その名の通り民法で定められた相続分の割合を指します。被相続人が遺言書を残していない場合、相続はこの法定相続分に従って進められます。
たとえば、配偶者と子どもが相続人であれば、配偶者が1/2、子どもが1/2を等分して受け取ると定められています。これは被相続人の意思とは関係なく、法律上の標準配分として用いられるルールです。
法定相続分は、相続人の構成(誰が相続人になるか)によって異なります。以下で詳しく見ていきましょう。
2. 具体的なケースで見る法定相続分
法定相続分は、相続人の構成に応じて定められており、以下のように代表的なケースで分け方が異なります。表で確認すると、どのように財産が分配されるかが明確になります。
相続人の構成 | 配偶者の取り分 | その他の相続人の取り分 |
---|---|---|
配偶者+子(1人) | 1/2 | 子:1/2 |
配偶者+子(2人) | 1/2 | 子:各1/4 |
配偶者+直系尊属(両親など) | 2/3 | 親:1/3 |
配偶者+兄弟姉妹 | 3/4 | 兄弟姉妹:1/4 |
子のみ(配偶者なし) | - | 子:全財産を等分 |
親のみ(配偶者・子なし) | - | 親:全財産を等分 |
兄弟姉妹のみ | - | 兄弟姉妹:全財産を等分 |
たとえば「配偶者+子2人」の場合、配偶者は1/2、子どもはそれぞれ1/4ずつ相続します。また、兄弟姉妹のみが相続人となるケースでは、全体の相続分を等分しますが、法定相続分の割合が小さいため、取り分が少なくなるのが特徴です。
なお、異父母兄弟姉妹(片親だけ同じ兄弟姉妹)は、同父母兄弟姉妹の半分の取り分となるため、注意が必要です。
3. 指定相続分とは?遺言書による個別指定
一方、被相続人が遺言書で相続の内容を指定していた場合、その内容に基づいて財産が分配されます。これが「指定相続分」です。
たとえば、「長男にすべてを相続させる」「妻に全財産の70%、残りを子ども2人で分ける」など、被相続人が自由に内容を決めることが可能です。
指定相続分の有効性を持たせるには、法律的に有効な形式で遺言が作成されていることが前提となります。自筆証書遺言、公正証書遺言など、法的効力を持つ書式でなければ、無効と判断される可能性があります。
4. 法定と指定、どちらが優先される?
基本的に、指定相続分は法定相続分に優先します。つまり、遺言書が存在する場合は、民法の法定相続分ではなく、その内容が優先されるのが原則です。
ただし、全てが自由に決められるわけではありません。後述する「遺留分」という制度により、相続人には最低限の取り分が保証されているのです。遺言内容がこの遺留分を侵害している場合には、「遺留分侵害額請求」が発生することがあります。
5. 遺留分との関係と侵害された場合の対応
遺留分とは、一定の法定相続人(配偶者、子、直系尊属)に保障されている最低限の相続分です。たとえば、「すべての財産を内縁の妻に相続させる」と遺言していたとしても、実子などの相続人は、遺留分を請求する権利があります。
遺留分の割合は、相続人全体の法定相続分の1/2が原則です。ただし、直系尊属のみが相続人である場合は1/3となります。
遺留分を侵害された相続人は、他の相続人や受遺者に対して「遺留分侵害額請求」を行い、金銭でその分を取り戻すことが可能です。
6. 寄与分・特別受益の加味による修正
さらに、相続分の調整要因として「寄与分」と「特別受益」という概念があります。
- 寄与分:生前に被相続人の財産形成や介護などで特別な貢献をした相続人に対して、相続分を増やす制度。
- 特別受益:被相続人から生前に住宅資金や結婚資金など、特別な贈与を受けていた場合、その分を差し引いて公平な分配を図る制度。
たとえば、長男が親の介護を10年以上担っていた場合は寄与分を主張でき、妹が結婚の際に多額の贈与を受けていた場合は特別受益として考慮される可能性があります。
7. 実際の分割方法と金銭精算の仕組み
相続分は「取り分の割合」ですが、現実の財産は現金・不動産・株式などさまざまで、単純に割り切って分けられるとは限りません。そのため、以下のような4つの分割方法を状況に応じて使い分けることになります。
① 現物分割(げんぶつぶんかつ)
財産をそのままの形で分け合う方法です。たとえば、長男が実家の土地を、次男が預貯金を、それぞれ相続するようなケースです。わかりやすい一方で、価値のバランスが取りにくい場合があります。
② 代償分割(だいしょうぶんかつ)
ある相続人が不動産などの財産をまとめて取得し、その代わりに他の相続人に現金などを支払って公平を保つ方法です。たとえば、自宅を長女が取得し、他の兄弟には代償金を支払うといった形です。
③ 換価分割(かんかぶんかつ)
財産を売却して現金化し、そのお金を相続人で分け合う方法です。不動産を相続人全員の共有にせず、売却してスッキリ分けたい場合などに有効です。
④ 共有分割(きょうゆうぶんかつ)
ひとつの財産を複数の相続人で共有する方法です。たとえば、自宅の土地・建物を兄弟2人の共有名義にするケースです。ただし、後々の売却や管理で意見が食い違うリスクがあるため、慎重な判断が必要です。
どの方法を選ぶかは、相続人同士の話し合い(遺産分割協議)で決定します。もし意見がまとまらない場合は、家庭裁判所での調停や審判によって分割方法が決められることもあります。
まとめ:フェアな分配のためにルール理解を
相続分は、法律による定め(法定相続分)と、遺言による自由な意思表示(指定相続分)の両面から決まります。そこに加えて、遺留分、寄与分、特別受益などの制度も関与し、実際の配分は複雑になりがちです。
こうした制度を知らずに話し合いを進めると、無用なトラブルや不公平感を生む原因になりかねません。相続が「争続」にならないためにも、基本的なルールや例外的な制度を理解しておくことが大切です。