
はじめに:退職後の健康保険の選択肢
会社を退職すると、それまで加入していた健康保険をそのまま継続することはできません。新たな選択肢としては大きく3つあります。
- 任意継続被保険者制度を利用して会社の健康保険を継続する
- 国民健康保険に加入する
- 家族の扶養に入る
どの選択が有利かは、所得、家族構成、今後の働き方などによって異なります。特に「任意継続制度」は、条件を満たせば最長2年間は会社員時代の健康保険を使い続けられる仕組みですが、その分の保険料は全額自己負担となるため注意が必要です。
1. 任意継続被保険者制度とは?
任意継続被保険者制度とは、会社を退職した後も、希望すればそれまで加入していた健康保険(協会けんぽや健康保険組合)を最長2年間継続できる制度です。
本来、退職すると自動的に資格を失いますが、条件を満たして申請をすれば、国保に加入せずに済むケースがあります。特に医療の保障内容が手厚い健康保険組合に所属していた人にとっては、メリットの大きい選択肢です。
任意継続の保険料は全額自己負担となり、現役時代に会社が負担していた分も支払う必要があります。とはいえ、国保よりも保険料や給付内容の面で有利になる場合が多いため、まずは比較検討するのが賢明です。
2. 任意継続できる条件と期間(最長2年)
任意継続を利用できる条件は次の通りです。
- 退職日までに継続して2か月以上健康保険に加入していたこと
- 退職日から20日以内に申請を行うこと
この条件を満たせば、最長2年間は継続可能です。2年を過ぎると自動的に資格喪失となり、国保や他の制度に加入する必要が出てきます。
3. 保険料の計算方法(全額自己負担)
在職中は会社と折半で負担していた健康保険料ですが、任意継続になると全額自己負担となります。
例えば、在職中に月3万円の保険料を給与天引きされていた場合、実際は会社が同額を負担しており、合計6万円の保険料がかかっていました。退職後に任意継続をすると、この会社負担分も含めた月6万円を自分で支払う必要があるのです。
ただし、協会けんぽの場合は「標準報酬月額の上限」が設定されており、在職中の給与が高かった人でも一定の上限額で保険料が頭打ちになる仕組みがあります。そのため、高所得者ほど任意継続が有利になるケースがあります。
任意継続の保険料は年齢や扶養家族の有無に関係なく一律計算されます。扶養家族が多い人ほど、国民健康保険より任意継続が割安になるケースもありますので、両方を試算して比較するのがおすすめです。
4. 国民健康保険との比較ポイント
任意継続と国保、どちらが有利かを判断する際のポイントは以下の通りです。
- 保険料:任意継続は在職時の標準報酬に基づいて決まるため、収入が下がっても一定額のまま。国保は前年所得に応じて計算されるため、退職後に所得が激減した人は国保の方が安くなる可能性がある。
- 扶養の考え方:任意継続では扶養制度があるため、配偶者や子どもを保険料の追加負担なしで加入させられる。国保は人数に応じて保険料が増える。
- 給付内容:協会けんぽや組合健保では付加給付(医療費の自己負担をさらに軽減してくれる仕組み)があることも。国保には原則ない。
5. 家族の扶養の有無による違い
退職後に配偶者が会社員として健康保険に加入している場合、その扶養に入れるかどうかも重要な判断材料になります。
扶養に入る条件は、年間収入が130万円未満(60歳以上や障害者は180万円未満)で、かつ被保険者の収入の2分の1未満であることが基本です。扶養に入れる場合、保険料を支払う必要がないため最も経済的です。
6. 医療費や給付金の保障内容の違い
任意継続の場合、会社員時代と同じ給付内容を利用できます。特に大きな違いが出るのは以下の点です。
- 医療費の自己負担割合:現役時と変わらず3割負担(70歳未満の場合)。
- 付加給付:健康保険組合によっては高額療養費制度に上乗せして給付が受けられる。
- 傷病手当金・出産手当金:退職後は新たに発生しない。ただし、退職前に受給が始まっている場合は継続受給可能。
一方、国保には付加給付はなく、原則として法定給付のみとなります。
7. 任意継続のメリットとデメリット
任意継続制度には利用する上での利点と注意点があり、状況に応じて慎重に判断する必要があります。
メリット
- 健康保険組合の付加給付を継続できる
- 扶養家族を追加保険料なしで加入できる
- 医療費の自己負担割合が変わらない
デメリット
- 保険料が全額自己負担になり高額になることがある
- 収入が減っても保険料は変わらない
- 最長2年しか利用できない
8. 判断のタイミングと手続きの流れ
任意継続の申請は退職日の翌日から20日以内に行う必要があります。手続きは協会けんぽや所属していた健保組合に対して行い、申請書や退職証明書、保険証の返却などが必要です。
国保に加入する場合は、退職日の翌日から14日以内に市区町村役場で手続きを行います。
どちらを選ぶかの判断は、退職前に保険料の試算を行い、世帯収入や家族構成に照らし合わせて早めに決めるのが理想です。
まとめ:自分に有利な制度を見極めるための判断材料
退職後の健康保険の選択は、家計に大きな影響を与える重要なポイントです。任意継続は扶養や付加給付などのメリットがありますが、全額自己負担の保険料がネックとなる場合もあります。一方で、国保は収入が下がった世帯に有利に働くことがあります。
「誰を扶養に入れるか」「今後どのくらい収入が見込めるか」「医療費のリスクをどう考えるか」といった観点から、自分と家族にとって最も有利な制度を選びましょう。