海外での治療費は健康保険でカバーされる?海外療養費の申請方法

海外療養費制度の概要

はじめに

海外旅行や留学、出張などで海外に滞在中、急な病気やケガで医療機関を受診することは誰にでも起こり得ます。しかし、日本の健康保険証は海外の病院ではそのまま使うことはできず、現地では全額自己負担での支払いが基本です。特に欧米など医療費が高額な国では、数日間の入院で数百万円に達するケースもあり、家計に大きな負担となります。

そのような場合に備えて設けられているのが「海外療養費制度」です。これは、海外で受けた治療について、一定の条件を満たせば帰国後に健康保険から一部の費用を払い戻してもらえる仕組みです。ただし、すべての治療が対象になるわけではなく、申請方法や書類の整備も必要です。事前に知っておくことで、いざというときに慌てずに対応できます。

1. 対象となる治療と対象外の治療

海外療養費の対象となるのは、あくまで「日本で保険診療として認められている治療」に限られます。

対象となる例

  • 急性胃腸炎、肺炎などの感染症治療
  • 骨折や打撲などのケガの治療
  • 盲腸(虫垂炎)の手術
  • 出産(ただし正常分娩は原則自費、日本と同じ扱い)

対象外の例

  • 美容目的の整形手術
  • 健康診断や人間ドック
  • ワクチンなどの予防接種
  • 日本では未承認の薬や自由診療的な治療

つまり、日本で健康保険が適用される「治療目的の医療行為」であれば対象となり、予防や美容、自由診療に当たるものは払い戻しの対象外となります。

💡「日本で保険が効く治療かどうか」が基準です。予防や美容、自由診療は払い戻し対象外になります。

2. 申請できる条件(緊急性・必要性)

海外療養費が認められるためには、以下の条件を満たす必要があります。

  1. 現地で治療を受けたことが事実であること
    領収書や診療明細書で証明できる必要があります。
  2. 緊急性・必要性があること
    単なる健康管理や予防目的ではなく、病気やケガの治療であることが前提です。
  3. 保険診療として妥当な範囲であること
    日本で保険適用される医療行為と同等の内容であることが必要です。
  4. 現地の正式な医療機関で受診したこと
    医師免許のない人や民間療法による施術は対象外となります。

このため、旅行中の不注意で風邪薬を買った、スパでマッサージを受けた、といったものは当然対象外です。

💡「緊急性・治療目的・正式な医療機関での受診」が条件です。観光中のマッサージや市販薬の購入は対象外です。

3. 支給額の計算方法(日本の医療水準ベース)

海外療養費の支給額は「実際に支払った金額」ではなく、「もし同じ治療を日本で受けた場合の医療費」が基準となります。

例えば、アメリカで盲腸の手術を受けて200万円かかった場合でも、日本で同等の治療にかかる費用が60万円と認定されれば、そのうちの自己負担分(3割)を除いた額、すなわち約40万円程度が払い戻されるにとどまります。

つまり「現地での支払額」よりも大幅に少ない金額しか戻らないケースが多く、全額補填されるわけではありません。この点は利用者が誤解しやすいポイントです。

💡払い戻し額は「日本で治療した場合の基準」で計算されます。現地で払った全額が戻るわけではないので注意が必要です。

4. 申請方法と必要書類(診療内容明細書・領収明細書など)

海外療養費を申請する際には、次の書類を準備する必要があります。

  • 療養費支給申請書(健康保険組合や協会けんぽから入手)
  • 診療内容明細書(Form A)
  • 領収明細書(Form B)
  • 領収書の原本
  • パスポートの写し(出入国日付の確認用)
  • 診断書(必要に応じて)

診療内容明細書と領収明細書は、現地医療機関で発行してもらう必要があります。日本語以外で記載されている場合は、必ず翻訳文を添付します。翻訳は自分で行っても構いませんが、正確性が求められるため専門業者に依頼する人も多いです。

💡明細書・領収書は必ず現地で入手し、翻訳文を添付しましょう。書類不備は申請却下の原因になります。

5. 申請の流れと期間

申請の基本的な流れは以下の通りです。

  1. 現地医療機関で受診 → その場で全額自己負担
  2. 領収書や診療明細書を必ず受け取る
  3. 帰国後、勤務先の健康保険組合や協会けんぽに申請書類を提出
  4. 保険者が内容を審査
  5. 認定された額が口座に振り込まれる

申請の期限は「治療を受けた日の翌日から2年以内」です。ただし、書類の準備や翻訳に時間がかかることが多いため、早めに着手することが推奨されます。

💡申請は治療翌日から2年以内。翻訳や準備に時間がかかるため、早めに対応するのが安心です。

6. よくあるトラブル事例(翻訳・書類不備)

海外療養費の申請で多いトラブルは次の通りです。

  • 書類不備:診療内容明細書や領収明細書がそろっていない
  • 翻訳の不備:専門用語が不正確で審査が通らない
  • 領収書を紛失:原本がないと申請できない
  • 対象外の治療を申請:美容目的や予防目的の医療を申請して却下される

これらを避けるためには、現地で受診した際に必ず「明細書と領収書」をセットで受け取ること、そして帰国後は早めに翻訳と申請準備を行うことが重要です。

💡トラブル防止には「明細書と領収書の確保」「正確な翻訳」「対象外治療の除外」が必須です。

7. 海外旅行保険との併用メリット

海外療養費制度は確かに便利ですが、実際の支給額は日本の医療費水準が基準となるため、現地の高額医療費をカバーしきれない場合が多いです。

例えばアメリカで1000万円の医療費がかかっても、海外療養費で戻るのは日本基準の数十万円程度にとどまります。そこで役立つのが海外旅行保険です。旅行保険は実際に支払った費用をベースに補償してくれるため、高額な医療費でも大部分をカバー可能です。

さらに旅行保険では「キャッシュレス診療サービス」が利用できる場合があり、現地で現金を用意せずに治療が受けられるのも大きなメリットです。したがって、海外療養費はあくまで「セーフティネット」と考え、実際のリスクに備えるには海外旅行保険と併用するのが賢明です。

💡海外療養費は補助的な制度。実際のリスクには海外旅行保険を併用するのが安心です。

まとめ:事前に制度を知って安心して海外へ

海外での治療費は基本的に全額自己負担ですが、海外療養費制度を利用すれば一部が払い戻されます。ただし、対象となるのは「日本で保険適用される治療」に限られ、支給額も日本の医療費水準が基準となるため、必ずしも実費が補填されるわけではありません。

申請には診療明細書や領収書、翻訳文などが必要で、手続きに時間と労力がかかります。さらに支給までには数か月を要することもあります。

そのため、実際に海外で安心して過ごすためには、海外療養費制度だけに頼らず、海外旅行保険を併用するのが最も安心です。出発前に制度の仕組みを理解し、いざというときに慌てないよう備えておきましょう。

💡海外療養費制度はあくまで一部補填。安心のためには海外旅行保険を組み合わせるのがベストです。

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